蔵の中に住む胸を病む姉と、彼女を慕い看病する弟の妖しい関係を描く。横溝正史の同名の小説の映画化で、脚本は「愛獣 悪の華」の桂千穂、監督は「ザ・ウーマン」の高林陽一、撮影も高林陽一と津田宗之がそれぞれ担当。誌「象徴」の編集者、磯貝三四郎のところへ、蕗谷笛二と名乗る少年が原稿を持ち込んで来た。「蔵の中」と題されたその小説の世界に三四郎は浸り込んでいった。--「蔵の中」に笛二と姉の小雪がひっそりと暮している。小雪は五歳のとき中耳炎で耳が不自由になって聾唖者となり、今は胸を病み、他人に伝染さないようにと、蔵の中に住んでいる。そこは、絵草紙、錦絵、能面などが散乱する頽廃美の空間。ある日、猛烈に咳こみ、喀血する小雪の唇を、笛二は吸い、その血痰を吐きすてた。姉に勧められるままに、笛二は唇に朱をさし、頬に白紛をぬり、弁天小僧の錦絵になぞらえて、美しく化粧をしたりしていた。その後も、小雪は喀血を繰り返した。「どうせ、長い命じゃない。したいことをするのよ」と呟く小雪。床に落ちていた遠眼鏡を拾いあげて、笛二は窓の外を眺めた。遠眼鏡の視野に、雨戸を開け放れた奥座敷が見える。そこには、小粋な年増美人お静の暮しがあった。お静は三四郎の愛人であり、二人はそこで愛しあい、言い争っていた。口のきけない小雪の唇を読むのに馴れている笛二に、二人の会話を読みとるのは造作も無かった。二人の話から、笛二は、三四郎の死んだ妻が莫大な財産を残して死んだこと、まだ四十九日も経っていないこと、死ぬ直前に、三四郎が妻の死を願っていたこと、血を吐いて急死したことなどを知った。三四郎は、自らの野心、欲望のために、妻に手をかけたのか。一方、小雪の病状は、重くなるばかりたった。重くなるにつれて、ふたりは、ますます妖美な世界にのめりこんでいき、お互いに貧りあう。その時、疑心暗鬼、痴話喧嘩の果てに、三四郎はお静の首に手をかけた。茫然と見る笛二。恍惚と歓喜の中、お静は妖しく黒髪をふりみだして、息絶えていった。「あたしを殺して、あの人がしたみたいに」笛二も又、愛してやまぬ小雪の首に、震えながら手をかけた。原稿を読み終えた三四郎は「蔵の中」に向って走り出した。