82才の老人が、ひとり小舟を操り、流れの速い黒潮で巨大カジキに挑む!今から20年前、荒々しくも美しい自然が残る与那国島に、サバニと呼ばれる小舟を操り200キロもの巨大カジキを追う老漁師がいた。島の人々に支えられ、ばあちゃんを愛して海に行き、海を愛して漁に出る。じいちゃんは長い不漁に苦しみながらも、自然への敬意と漁師の誇りを忘れず、1年後、ついにカジキとの格闘に打ち勝った。まっすぐなじいちゃんの生き方や、自然と人間とが共存する姿から、人が生きる事の根源的な強さと豊かさがはっきりと見えてくる。ヘミングウェイの不朽の名作『老人と海』の世界が、地球の裏側に厳存していた。小説『老人と海』の舞台であるキューバのハバナ港と、日本最西端に位置する与那国島とは、緯度がほぼ同じで似たような激しい海流が流れている。この面白い類似に気が付いたプロデューサーは、『老人と海』の世界を求めて与那国島に飛んだ。そしてサバニに乗ってカジキ漁をする老漁師、糸数繁さんと出会い、与那国島の独特な文化や、ゆったりと流れる時間をカメラに収めながら1年にわたって撮影を敢行し、企画からまる5年がかりで映画は完成した。じいちゃんは愛する海に還っていった。映画完成後、最初の上映会が与那国島で開かれた。そこでじいちゃんはヒーローになった! しかし、東京公開を1ヶ月後に控えた1990年7月末、いつものようにサバニで漁に出ていたじいちゃんは、カジキと思われる大魚に引きずり込まれ、海で還らぬ人となってしまう。海と共に生き、そして海に還っていったじいちゃんは、真の意味で『老人と海』の主人公そのものだった。