山間の小駅。午前二時を指す時計のかかった待合室には、水害で列車が立往生、足止めを食った乗客がたむろしている。重役夫妻、男女学生、老夫婦、オンリーの夏子、田舎娘など、色々な人がごった返す待合室の隅には、乳呑児を抱えた時枝が、ひっそりと佇んでいた。そして、その傍には一本の手錠でつながれた刑事と殺人犯の森がいた。宿屋のない土地とて一同はバスで次の駅へ出ることになる。しかし行手には山崩れの峠道と八時間の暗夜の行程が待っていた。その上、出発を目前に、二千万円を奪って逃げた二人組の銀行ギャングが、この方面に立回ったという情報が入った。乗客は動揺、バスの人数は半分に減った。残った十四人を乗せバスは不安と恐怖とともに進んだが、漸く夜が明けかけ一同ホッとする。しかし時枝の表情は何故か暗いまま。やがてバスは壊れかけた橋を危うく渡るが、そのドサクサに時枝が姿を消す。全員が捜した末、川に身投げした時枝は救い出されるが、赤ん坊は虫の息。幸いにも医者が乗合せていたが、それは皮肉にも殺人犯の森であった。森は元軍医だったが、復員して妻の不義を見るや逆上して二人を殺したものである。だが彼は今や必死に人命救助の使命に従った。やがて進むバスの前に、今度は二人連れの青年が手を上げた。バスに乗込むや、ボストンバッグを手にした兄貴分の大井は、いきなり刑事を拳銃で射殺、バスはギャングに占領されてしまう。途中、警戒の警官に会っても拳銃で脅された乗客は手出しができない。バスが泥道にはまり込んだ時、夏子は色仕掛で子分を誘い出し、熊の罠に落し、大井が子分の悲鳴に駈けつける間にバスは走り出す。しかし一同が行手を阻む大石を下車して取除けているうちに再び大井が現れる。だが折しも近づいた警官隊のトラックに、慌てた大井は独りバスに飛乗り逃亡を図るが、勢い余って車もろとも崩下へ転落する。峠道には二千万円入りのボストンバッグが何事もなかったように残されていた。