20世紀初頭、明治後半の東京。新劇を推進する「文芸協会」は、大久保博士(進藤英太郎)、島村抱月(土方与志)が牽引する文化団体、劇団である。倉本源四郎(志村喬)が開いた「高等演劇場」の2階に仮事務所、仮教室を提供してもらった。ここで開かれる演劇の講義は、大久保、島村のほか、福原圭介(薄田研二)らが講師となって、新しい演劇を生み出そうと必死である。誰にも増して熱心な生徒がいた。小林正子(山田五十鈴)である。平井陽三(石黒達也)の紹介でともに学ぶ正子は、2度結婚し、2度目の夫も家も捨て、上京した女である。ウィリアム・シェークスピアの『ハムレット』を試演、次の公演はヘンリック・イプセンの『人形の家』である。主役の女性・ノラを演じるのは、小林正子改め松井須磨子であった。公演は成功、須磨子は賞賛を浴びた。ノラそのものの人生を生きる須磨子の迫真の演技が観客の胸を打たないはずはなかった。須磨子の人生は変わった。そして須磨子には、恩師・島村に尊敬以上の感情が生まれていた。ある日、須磨子の友人であった平井が、求婚をしてきた。須磨子は予想外のことに驚き、島村に相談した。そのとき島村は、須磨子に強く惹かれている自分の存在に気づいた。しかし、島村は養子であった。古い家制度。ノラが打ち破ろうともがいたものそのものではないか。島村と須磨子の恋愛は、大きな問題となり、二人は協会を脱退せざるを得なくなった。二人は新たに、さらに自由な演劇世界を求めて、「芸術座」を設立した。『早稲田文学』同人たちに励まされ、レフ・トルストイの『復活』を上演、以降、賞賛を再び勝ち取った。よろこびもつかのま、島村は病に倒れ、須磨子もその後を追った。