平安時代。信濃の大領の息子・大伴次郎親信は京の都へ向かう途上、迷い込んだすすきケ原の六角堂で女陰陽師の杜女に出会い、世に名高い笛師・喜仁の作になる謎めいた笛を手渡された。その後上洛した次郎は、身を寄せた三條中納言の館に住む萩姫に心を奪われる。だが萩姫は朝廷に入内が決まっており、さらに姫の心は色事師・蔵人の少将安麻呂の虜となっていた。次郎は想いを込めて笛を奏で、その笛の音に人の心はざわめいていく。思いつめた姫の心を悟った次郎は姫の文を安麻呂に届けるが、安麻呂には自分の地位を賭けてまで入内の決まった女と深入りする気もなく、次郎は行き場のない怒りを胸に宿らせる。次郎は姫を山中の隠れ家にさらって想いを打ち明け、安麻呂の本心を知って絶望した姫は次郎の前に体を投げ出すが、心の通わぬその姿を見た次郎は恋を諦め姫を館に送り返すのだった。次郎は姫をさらった罪で検非違使・宗康の追求を覚悟していたが、かねてより狙われていた盗賊の不動丸に姫が連れ去られ、しかも宗康が不動丸の仮の姿だったことを知った次郎は、怒りで鬼神と化して姫の救出に向かい、不動丸一味を惨殺する。累々たる死体を前に、姫は初めて次郎の想いの激しさを知り、いつの間にか次郎に惹かれていた己の心に気付いたが、もはや次郎は地獄のような今後の人生を一人で歩むつもりでいた。ふと気付くと次郎は陰陽師と出会った六角堂におり、すべては杜女が見せた行く末の幻だと言われ、それでも京へ上るかと問われる。次郎は、次こそ姫とともに地獄に落ちようと答え、杜女は待ち望んでいたその言葉に大きく頷いた。